ジャングルを勝ち抜く戦闘力をつけろ・470回・安倍政権は「嫌われるマイクロ・マネ-ジャーの典型だ・大前研一・「ビジネス新大陸」の歩き方・・平成27年2月8日
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ジャングルを勝ち抜く戦闘力をつけろ・470回・安倍政権は「嫌われるマイクロ・マネ-ジャーの典型だ・大前研一・「ビジネス新大陸」の歩き方・・平成27年2月8日
会社で最も嫌われるタイプをご存じだろうか?「マイクロ・マネージャー」、すなわち部下の行動を箸の上げ下ろしまで細かくチェックして、いちいち文句をつける上司である。部下には意思決定を一切任せず、報告書や領収書の瑕疵といった些細な点まで重箱の隅をつつくように管理・干渉をすることを、否定的な意味を込めて「マイクロ・マネージメント」というのである。
そんなマイクロ・マネージメントの典型が、安倍政権だ。安倍政治というのは、一言で言えば「官僚依存による中央集権の統制社会」である。
つまり、中央政府の役人が細かいことまで自分たちの権限で決め、国民や地方や企業に押し付けている。その規制の中で「目こぼしをする」のも役人だ。
「お灸をすえる」のも役人だ。
安倍政権のやっていることは規制緩和どころか規制強化であり、役人が省利省益を拡大するためのマネージメント自体が目的になっている。だから、地方創生や経済成長には全くつながっていない。
一例は、昨年から始まった「教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度」だ。これは親や祖父母が30歳未満の子供や孫に教育資金を贈った場合、1人当たり15,000,000円まで贈与税がかからないという制度である。
しかし、この制度を使うためには、金融機関に子供や孫の名義で専用口座を開いて贈与する資金を入金し、保育料、学用品の購入費、修学旅行費、給食費などを引き出して支払ったら、使途が教育資金であることを証明する書類(領収書など)を金融機関に提出しなければならない、という面倒くさいルールがある。
しかも、入金した資金を30歳までに使い切らなかった場合は、口座の残額が贈与税の対象になる。
カリに子供や孫が現在5歳とすれば、ストレートで大学を卒業するまでに17年間、30歳になるまでには25年間もある。その間ずっと領収書をもらって毎年、金融機関に提出しなければならないわけだ。
さらに、たとえば子供や孫がスポーツ選手を目指していてもスポーツ観戦の費用は教育資金にならないのか?ゲームのプログラマーになりたいと思ってもゲームソフトなどの購入費は教育資金にならないのか?
東京ディズニーリゾートやユニバーサル・スタジオ・ジャパンに行くのは、なぜ教育目的と認められないのか?教育資金か否かの判断は誰がするのか?
そうした矛盾や疑問が多々あるのに、新聞やテレビは指摘しない。
その上、この4月からは「結婚・子育て資金の一括贈与に係る贈与税の非課税措置」が創設される。この制度は結婚・妊娠・出産・子育てについて、親や祖父母から1人当たり10,000,000円まで(結婚費用は300万円まで)の資金を、非課税で贈与できるというものだ。
これを利用する時は教育資金と同じく金融機関に信託する必要があり、結婚子育て資金の支払いに充てたことを証明する書類(結婚の費用や出産費用、ベビーシッター代などの領収書)を金融機関に提出しなければならない。贈与を受け入れた人が50歳になった時点で口座に残額があった場合は、やはり贈与税の対象になる。
教育資金と結婚・子育て資金の非課税額は合計すれば上限25,000,000円になるが、もともと教育資金など生活に必要なお金を親や祖父母が出しても贈与税は課せられていない。従来の生前贈与でも毎年110万円までは非課税だし、「相続時精算課税の特例による非課税枠」25,000,000円と「住宅取得資金贈与の特例による非課税枠」最大1500万円を一緒に利用すれば最大40,000,000円まで非課税にとなる。
そもそも、高齢者の保有する資産を消費拡大へと活用する目的で、特例的に贈与税や相続税を非課税にするというのなら、親や祖父母が贈った資金を何に使うかということに政府が口をはさむこと自体がおかしいと思う。
親や祖父母にもらったお金でゲームソフトを買おうが、スポーツ観戦しようが、旅行に行こうが、個人の自由ではないか。「とにかく30,000,000円までは何に使っても非課税に」とすれば高齢者を中心に貯め込んでいる約1600兆円の個人金融資産が一気に子ども・孫世代へと移って消費が拡大するはずだ。
なのに、それらをすべて使徒限定の「ヒモ付き」にしているということは、逆に言えば、中央の役人たちが規制を緩和したかのように見せかけているだけで、実際には手綱を全く話していないということだ。安倍政治は、あらゆる分野で官僚が非常に細かいところまで差配して管理を強化し、国民や地方や企業に対しては「恵んでやる」という「上から目線」なのである。
…恐ろしいほどの「計画経済」国家…
安倍政権が典型的なマイクロ・マネージャーであるゆえんは、贈与税の非課税制度を新設する一方で、今年1月から相続税の課税対象者の拡大や税率の引き上げを行っていることだ。基礎控除額が「5千万円+1千万円×法定相続人の数」から「3千万円+600万円×法定相続人の数」に縮小され、税率も2億円超3億円以下が40%から45%に、6億円超が50%から55%に引き上げられた。
要は、裕福な高齢者の金融資産を吐き出させようとしているわけだが、これでは裕福層はますます海外に逃避するし、たいして資産がない中間層は相続税に備えて一層財布のヒモを締めるだろう。その結果、税収もせいぜい「行って来い(プラスマイナス・ゼロ)」で、消費が減退するだけに終わると思う。
また、中央の役人たちが全く手綱を離していない例には「国家戦略特区」がある。東京圏、関西圏、新潟県新潟市、兵庫県養父市、福岡県福岡市、沖縄県が指定されたが、なぜ6区域だけなのか?役人の答えは「収拾がつかなくなるから」。恐ろしいほどの「計画経済」である。
だが、変化は収拾がつかなくなったところで起きる。角的には無秩序が成長を促し、そこから新しい秩序が生まれるのだ。国家戦略特区には国が6区域だけ指定するのではなく、中国の経済特区のように日本全国どこでも手を挙げたところはすべて特区にして自由にやらせればよいのである。成長戦略は解放と混乱の中からしか生まれないということを、役人は知るべきだろう。
こうした安倍政権のマイクロ・マネージメントの事例はまだ山ほどある。次号でさらに解説する。
平成27年2月24日 火曜日
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