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2014年5月27日 (火)

対米従属を強める解釈改憲・・立憲主義に無知な安倍総理・・慶応大学義塾大学名誉教授・・小林節・


引用

対米従属を強める解釈改憲・・立憲主義に無知な安倍総理・・慶応大学義塾大学名誉教授・・小林節・・平成26年5月26日・・96条先行改正は「裏口入学」だ!

・・・2012年12月に第二次安倍政権が発足してから、1年5ヶ月が経ちます。この短い期間に、安倍政権は重要問題を次々に提起しています。総選挙ではTPP断固反対を掲げていたにもかかわらず、TPP推進に転じ、国会での十分な議論を経ることなく特定秘密保護法を成立させました。今、憲法解釈の変更によって集団的自衛権行使を容認しようとしています。この一連の動きをどのように見ていますか。

小林・国際国家として日本が生きていくために、ある程度日本の構造改革を進めなければならず、TPPにもある程度妥協が必要だと思っています。しかし、票を取るために「断固反対」と言っていたのに、急にその立場を変えるということは、手続き的に大きな問題があります。特定秘密保護法の必要も認めますが、法案の中身に大きな問題がありました。

人間は間違える存在です。だからこを、法制度は人間の不完全性を前提に作られているのです。ところが、特定秘密保護法は秘密を漏らした公務員とそれに協力した民間人に厳罰を科すのに、行政官や政治家が不正な隠蔽をしても裁かれません。こうした問題のある法案を数の力で通してしまう。安倍首相は、今や聞く耳を持たなくなっています。「僕の言うことをと聞く人は好き。聞かない人は嫌い」といった、「おぼっちゃま独裁者」です。国家答弁を聞いていても、論争に行き詰まると「失礼じゃないですか」と感情的な反応をします。これは、本来あるべき政治家の姿ではなく、北朝鮮や中国の独裁者の反応と変わりません。政治家としては危険だと思いますね。

その危険性が露骨に表れたのが、昨年の憲法96条の先行改正でした。国会議員の3分の2以上による提案が必要という改憲へのハードルを、「衆参それぞれの過半数」に下げようとしました。しかも自民党側は、この立憲主義の根幹に関わる重大問題について、「たかが手続きの問題」といったのです。

権力者は常に堕落する危険があり、歴史の曲がり角で国民が深く納得した憲法で権力を抑えるというのが立憲主義の立場です。だからこそ、憲法は簡単に改正できないようになっているのです。日本国憲法は世界一改正が難しいなどと言われていますが、アメリカでは、上下各員の3分の2以上の賛成と4分の3以上の州議会の承認が必要です。

だから私は、安倍首相の姿勢について立憲主義や法の支配を知らないと批判し、「裏口入学」だとまで言ったのです。昨年、安倍首相が外遊に出かけるゴールデンウイーク前には、世論調査で96条改正支持が多かったのですが、安倍首相が外遊から帰ってきたら、世論調査の結果は逆転していました。そして、96条改正断念させることができました。

・・・国民の9条改正案を同ろうと示せ・・・ 

・安倍首相は、今度は、憲法改正によって9条を変えるのではなく、憲法解釈を変えることによって集団的自衛権行使容認に進もうとしています。しかも、まず内閣法制局長官を小松一郎氏に変えるという姑息な手段に訴えました。

小林・人を変えれば理屈が変わるとでも思っているのでしょうか。安倍首相には知性に対する尊敬とか畏怖の感覚が欠如しているように思います。官僚は国家としての主張の一貫性を重視します。だから官僚は、集団的自衛権行使のためには憲法改正しかないと進言する立場にあるわけです。ところが、完了が正しいことを言ったら、「だったら、お前どけ」ということになった。これは絶対にしてはいけないことです。小松氏はフラストレーションで病気になってしまったように見えます。任命を受けた小松氏も愚かですが、それを決めた首相も愚かです。

憲法9条成立の歴史的背景を考えなくてはいけません。我が国は第二次世界大戦に負け、「二度と侵略者になるな」という立法趣旨から9条は定められたのです。9条1項で自衛のための戦争はりゅ干しましたが、2項で海外派兵が前提の交戦権を否認しています。

集団的自衛権とは、同盟国が戦火に巻き込まれた際に支援しに行く権利です。26頁・これは、独立権国家である以上は持っていると国際法では認められていますが、9条2項は、我が国は海外派兵を禁じているのです。したがって、海外で武力を使うことになる集団的自衛権行使は、今の憲法ではありえないことです。

もし、どうしても行使が必要だというのなら、国民に9条の改正案を堂々と提案して、「国民投票」を実施すればいいのです。国民のものであるはずの憲法を、一時的に権力を預かっているだけの内閣が勝手に解釈の限界を超えてコントロールするなんてとんでもない。それは憲法を破壊する行為ですよ。

憲法は国家権力の乱用を防ぐために権力者に課せられた制限です。内閣によると「解釈」は、条文の許容限度内でのことでなければならないのです。この解釈改憲は、憲法に拘束されるべき権力者の中の最高権力者が、憲法を無視するに等しい行為であり、まさに「憲法泥棒」です。

そもそも、「安全保障の法的基盤の再構築に関する懇談会」(安保法制懇)に、憲法学会の標準的見解を代表する人が入っていない点が問題です。ところが、座長代理の北岡伸一氏は、憲法学者はいらないとまで言ったそうです。

・・・個別的自衛権と警察権であらゆる事態に対応できる・・・

・・安保法制懇は、荒唐無稽なケースばかりを取り上げています・・

小林・最初は、北朝鮮がアメリカにミサイルを発射した時、日本上空で撃墜するというケースを持ち出しました。しかし、アメリカへ飛んでいくミサイルは日本上空ではなく宇宙空間を飛んでいくのです。そう指摘されうと。今度はグアム等が攻撃されるケースを持ち出してきたました。日本上空ならば、集団的自衛権の行使など必要なく、危険物除去という警察権で対応できます。シーレーン(海上交通路)だって、他国の廊下ではなく自分の廊下です。それは個別的自衛権で対応できます。

朝鮮半島有事とは、実質的には日本海有事であり、在日米軍基地の有事です。太平洋で環太平洋合同演習(リムパック)を行っている場合もそうです。こうした演習では、当然アメリカが日本を訓練してくれているのです。そういうことは騎士道に反しますよ。PKOだって国連軍の司令官の下、同一部隊に入るのですから、どの国が撃たれようが、ともに戦うのは当然じゃないですか。これも個別的自衛権の発動で説明がつくのです。

にもかかわらず、集団的自衛権を行使を容認し、アメリカの戦争に巻き込まれたら、世界のどこへでも言って、共に戦いますなどという危険なことをやろうとしている。

27頁・ ・・現在の安倍政権のやり方は、「国会は、国益の最高機関であって、国の唯一の立法機関である」という憲法41条にも違反しているのではないでしょうか。集団的自衛権の行使容認を閣議決定で決めて、そのあとで必要な関連法案を改正しょうとしています。すでに自民党内の議論は、昭和34年12月に下された砂川事件に関する最高裁判所大判定を根拠として集団的自衛権容認を理論付ける高村副総裁の議論に集約されつつあります。・・

小林・砂川事件は、在日米軍の合憲性の話であって、そもそも日本の集団的自衛権の議論ではありません。当時は自衛隊の存在自体が合憲か意見かで争われていたのです。

自民党の人たちは、なにか頷くための口実を探していたのでしょう。そこに、高村発言が出てきて、自民党議員は一斉に傾き始めた。これほど全体主義的な組織はありません。

・・・政治家は落選覚悟で正論を言え・・・ 

・・自民党が多数を占め、その総裁がいま行政府トップにいます。行政府のトップが決めた方針が十分な議論を尽くさないまま、党の議論が一本になってしまう。・・

小林・本来、議院内閣制とは党が行政を管理するシステムのはずです。とろこが今、内閣総理大臣たる総裁が行政も議会も支配してしまぅっています。北朝鮮で金主席が「右向け、左」と言ったら、迷わず全員が左を向くような状態と変わりません。本来「おかしい」と声を上げなくてはいけないのに、全員が黙って間違った号令に従っています。

・・どうしてこうなってしまったのでしょうか・・小林・政治家が政治家である続けること自体を目的にしてしまっているからです。自ら定めた志を実現しようとするのが本来の政治家の姿のはずですが、今の選挙制度においいてただ当選することだけが目的となってしまっています。そうすると、党の公認が絶対に必要になります。総裁には絶対の権限があるから、総裁に逆らわなくなってしまうのです。

小選挙区比例代表制という現在の選挙制度は独裁者を生む制度だったということです。私は今、この制度に賛成したことを深く反省しています。・・第一次大戦後のドイツにワイマール憲法という民主的な憲法がありましたが、全権委任法でヒトラーが全権を掌握することになりました。しかし、ヒトラーも一応は議会制民主主義の建前を使って権力を握っていた。

28頁・小林・あれも憲法破壊ですよ法律でもって憲法を壊す憲法改正法を作り、結局ワイマール憲法を内側から破壊することになってしまいました。

選挙制度とともに、家業としての政治家の地位に留まることを目的とするような世襲制によって、ますます彼らは議席の維持を全てに優先し、ひたすら権力に従うという行動をとるようになっています。まさに貴族政治です。その結果、独裁者を生み出すようになっている。強い危機を感じています。

・・政治そのものが劣化しています。・・

 

小林・議論を避ける政治家は政治家とは言えません。自民党議員だけではなく、野党議員もだらしがなさすぎます。憲法違反をしようとしている与党に対して、野党は攻撃するチャンスのはずです。これほど良い土俵はないはずです。ところが、それを利用しよともしない。落選を覚悟で正論を言い続ける政治家がいなくては困るのです。国民は、もっと怒らなければいけませんよ。

・・・解釈改憲による集団的自衛権行使は阻止できる・・・ 

・・9条についてはどのように考えていますか。・・

小林・9条を改正して、次のような考え方を明確に規定すべきだと考えています。「間違っても二度と侵略戦争はいたしません。ただし、独立国家である以上、我が国が侵略の対象とされたら自衛の戦争は致します。そのために自衛軍は持ちます。国際国家として自衛軍を用意て国際貢献する用意があります。ただし、それには国連決議と事前の国会承認が必要です」と。

私は、一貫して改憲の必要性を訴え、そのための努力をしてきました。現行憲法の理念を最大限生かすためには、時代に合わせた改正が必要だとする「護憲的改憲」の立場です。長い時間をかけて与論に訴えた結果、ようやく改憲はタブー視されなくなりました。ところが、せっかく醸成されてきた改憲に対する国民の理解が、明治憲法に戻ろうと主張する自民党の一部のアナクロニズムが前面に出てきて、国民が再び引いてしまいました。・・日米関係については、どのように考えていますか。・・小林・日本はアメリカにすがりつくことばかり考えています。「アメリカさん、尖閣で紛争が起きたら、助けに来てくれますか?」と。

・・民主党政権時代の2010年9月、前原前外相はクリントン国務長官に「尖閣も日米安保第5条の対象である」と言っていただきました」と語っていました。ひたすらアメリカに頼ろうとしています。こうした姿勢が、対米従属を強めることになっています。・・

29頁・小林・尖閣に中国の基地が出来たら、困るのはアメリカです。必ずアメリカは自国の国益が脅されると判断すれば助けに来ます。にもかかわらず、アメリカにお願いするばかりです。

集団的自衛権行使も、あまりかが歓迎していると喜んでいますが、アメリカに誤解を与えることになりかねません。安保法制懇報告書には集団的自衛権を行使する条件として、「密接な関係にある国が攻撃を受け、放置すれば日本の安全に重大な影響を及ぼす場合」とされています。

しかし、これは勝手な論理です。国際法の常識なら、同盟国が戦争に巻き込まれたらそれに付き合うのが同盟です。アメリカだって、日本が集団的自衛権を行使すると言えば、どこでも一緒に戦ってくれると思ってしまいますよ。これほど危険なことはありません。北岡氏は、「集団的自衛権行使は権利であって義務ではない」と言っています。しかし、政府が集団的自衛権を解禁したら、日米安保条約改正の問題になります。そうなれば、アメリカが戦争に巻き込まれた時、日本に助けを求める権利が生まれます。日本は出て行く義務が生ずるのです。こう言ったら、北岡氏は何も答えられませんでした。

・・憲法解釈の変更による集団的自衛権講師をどう阻止していきますか。・・小林・メディア多数派は、解釈改憲の問題点をわかりやすく報道するという責任を果たそうとせず、政権に擦り寄ってばかりいます。読売とか産経は完全に政府の御用新聞になってしまっています。・・安倍政権は集団的自衛権行使を容認する閣議決定の時期について、公明党に配慮して、6月22に会期末を迎える通常国会の閉会後に延期するとしていますが、秋の臨時国会までに閣議決定する方針を変えていません。小林・公明党は北川副代表を中心に集団的自衛権について理論武装をしています。それは、個別的自衛権と警察権ですべて対応できるといいう考え方で、私の主張に近い。あそこまではっきりした考え方を示してしまうと、自民党の妥協は難しいかもしれません。年末には日米防衛協力のための指針(ガイドライン)改訂が予定されていますが、自衛隊法を始め五つくらいの法律を秋の臨時国会で変えなければ、ガイドラインにその内容を盛り込めません。臨時国会で論戦が始まったとき、マスコミや我々学者が明確な指針を与えることができれば、自民党は行き詰まると思います。月間日本6・(聞き手・構成・坪内隆彦)平成26年5月27日






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